柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)


柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)の効能

体力がなく、倦怠が著しく疲れやすい、動悸息切れ、微熱、寝汗がある、首から上に汗をかきやすい、口が渇いて食欲がない、おへその辺りで動悸がする、軟便であるが便秘をする人に用います。神経症、不眠症、頻尿といったものに応用されます。


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柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)の解説

虚証の人の神経症に合う柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)

半健康状態の一つに、「疲れやすい」という状態があります。その背後に何か重大な病変が隠れている場合もありますから、あまり軽く見ないで心配ならば受診したほうがいいこともあります。こういう人たちは元々体が弱く、気も小さい傾向があります。

漢方では、疲労も一つの病気ととらえ、これを「虚労病」と呼んでいます。例えば春先、春は冬の間隠れていたもの全てが活動的になる季節です。人間も心身ともに活動的な季節なのですが、体力不足の人はこの春の気に逆らって静かに沈んだ状態になりがちです。

漢方では、春になると五臓の中の「肝」が一番働き始めると考えています。人体には絶えず気が流れており、この気が滞るとイライラしたり、落ち込んだり、精神の失調状態が生じるわけですが、精神的なリラックス状態を保っているのが肝です。肝がよく働く春にその活動を抑える要素があると、西洋医学でいう自律神経系の疾患にかかりやすくなるのです。

したがって、肝の気が働くためにも、春はできるだけ体を動かし、活動的な生活をすることが精神的にもよい状態を保っことにつながるのです。

五臓の中で肝の親に当たるのが「腎」です。腎は冬の間、しっかりと体の中に栄養分を貯えます。その貯えたものを「腎精」といいますが、肝は腎精を利用して働きを旺盛にし、その結果体の代謝は旺盛になります。もし冬場に過労で体力を消耗したりすると腎精が消耗しますから、春になって肝の働くエネルギー供給が少なくなり、体内の気の流れが停滞することになるのです。

こうなりますと、「肝気鬱結」(かんきうっけつ)といわれる状態になり、体調不良が顕著になって西洋医学でいう自律神経系の疾患にかかりやすくなるのです。

柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)の各生薬の働き

体カ不足で気が小さい体質、気質を持つ人の治療には西洋医学より漢方が得意です。そして気が小さく、体力がない人の神経症に使用される漢方薬は、「柴胡桂枝乾姜湯」(さいこけいしかんきょうとう)です。

配合生薬は柴胡(さいこ)5g、黄ごん(おうごん)、天花粉(てんかふん)、桂皮(けいひ)牡蛎(ぼれい)が各3g、甘草(かんぞう)乾姜(かんきょう)が各2gの7種類で構成されています。

この処方の考え方は次の通りです。

体力がないために新陳代謝が衰えている下腹部を乾姜で温め体力補強します。

そして気が小さく精神的に不安定な人の特微である表熱証、つまり神経症の熱、特に上半身の興奮状態を柴胡(さいこ)、黄ごん(おうごん)、桂皮(けいひ)で「清熱」、つまり炎症、充血、自律神経の興奮などに伴って生じる熱感、のぼせ、ほてり、イライラ、尿が濃いなどの諸症状を改善します。

牡蛎(ぼれい)で精神的な不安を沈静し、熱のために水が失われて生じる口渇を天花粉(てんかふん)で止めます。

こうした各生薬の働きの組み合わせで、体力のない人の自律神経失調症、不眠症、更年期症候群、胃腸神経症などに応用されている処方なのです。柴胡と黄ごんの配された処方を総称して柴胡剤といいますが、西洋医学の消炎剤や解熱鎮痛剤に相当する薬です。

柴胡桂枝乾姜湯は、顔色のあまりよくない痩せ型の人で、頭部の発汗があり、食欲不振で眠りが浅く、かつ口渇気味の人に合う処方ですが、朝起きると気分が沈んでいて、口の中が粘ついており、たまらなく憂うつになる人に向いています。漢方の診断の場合は、へその上か下に動悸が感じられるかどうかもポイントにしています。

柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)のせき止め効果

気が小さく、体力がないということは、人間が本来持っている自然治癒力が弱いことにつながります。風邪を引いても治りにくく、せきがなかなか止まらない人に、柴胡桂枝乾姜湯は効果を発揮することがよくあります。麦門冬湯(ばくもんどうとう)と併用して2週間以上も続いていたせきが、数日で治った例が数多くあります。

柴胡桂枝乾姜湯は、一般には産後、病後の回復に用いられたり、栄養不良の虚弱者などが感冒や感染症にかかり、それが慢性化して炎症症状は強くないものの、なかなか治らないといった場合によく処方されています。最もよく使用する例は、神経症や心身症で痩せたり下痢したりするような虚弱者に対してです。

柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)の品質

乾姜(かんきょう)は温める力の強い古典的な乾姜を、使用しているかどうかが問題です。ショウガの根茎をそのまま、またはコルク皮を取り去り、もしくは蒸して乾燥したものを本来「乾姜」と呼ぶのですが、現在の日本では「生姜」(しょうきょう)「乾姜」「乾生姜」(かんしょうきょう)の区別が正しくなされていないことが多く、よく混乱を起こしています。

「乾姜」は乾燥したショウガ、「生姜」は乾燥してないヒネショウガ、「乾生姜」はややこしいのですが日本薬局方に書かれている生姜をさします。乾姜の品質のいいものは芳香があり、辛味を強く感じます。中国産の乾姜は、日本の三河乾姜に比べると辛味が強くて温める効果が高いので良品です。

柴胡(さいこ)も品質の差が大きい生薬で、以前は日本産のミシマサイコが最高級品といわれましたが、現在は野生のミシマサイコは全く存在しません。

韓国ではミシマサイコが栽培されており、植柴胡として輸入されていますが、本来のミシマサイコに比べると品質は大幅に劣るとされています。

中国産の柴胡は北柴胡と南柴胡が流通していますが、北柴胡といわれる河北省と河南省産のものが最もよいとされ高価です。北柴胡は製剤を試験管に取って水を加えてよく振ると、消えにくい泡がたくさん出るのが特徴です。

適応される症状

配合生薬

配合生薬の効能

柴胡(さいこ)

柴胡は漢方治療で解熱、消炎、鎮静、鎮痛薬として多用される重要生薬の一つです。主成分としてサイコサポニンA~Fなどのサポニンを豊富に含み、動物実験で上記薬効を裏付ける多くのデータが報告されている他、臨床的に肝機能障害の改善作用が認められています。

漢方では主として胸脇苦満、風邪、咽頭の痛み、気管支炎、肺炎などで炎症熱のあるもの抗炎症などを目標に慢性肝炎、慢性腎炎などに処方されます。

一時柴胡を配合した漢方薬が、一部の肝機能障害患者で副作用と思われる症状を示し、問題になつたことがありますので、他の医薬品と併用する場合は医師とよく相談してください。

桂皮(けいひ)

桂皮には、発汗作用 健胃作用 のぼせを治す作用 鎮痛作用 解熱作用があります。漢方では、頭痛、発熱、悪風、体痛、逆上などを目的に使います。

主成分は、カツラアルデヒドを含む精油です。

風邪をひいて胃腸や体が丈夫でない人は葛根湯(かっこんとう)でなく、桂皮を配合した桂枝湯(けいしとう)を服用すると良いでしょう。

民間療法として桂皮は健胃、整腸に用いられ、桂皮を煎じて食前に飲みます。また桂皮の葉を陰干しにし布袋に詰めて風呂に入れると、精油の作用で体をあたためる効果があります。

括楼根(かろこん)

植物のキカラスウリの根が括楼根(かろこん)、種子が括楼仁(かろにん)です。

括楼根は抗消化性潰瘍効果やインターフェロン(ウイルスに対抗する作用をもつタンパク質)誘起作用が確認され、解熱、抗炎症、鎮咳、止渇、催乳薬として利用されています。有効成分は脂肪酸のトリコサン酸やトリテルペノイドです。

括楼根はでんぷんを豊富に含み、「天花粉」と称して、昔から解熱消炎剤として小児の皮膚病やあせもなどに外用されていました。

括楼仁にも括楼根同様の脂肪酸や、トリテルペノイドが含まれ、抗腫瘍、免疫活性作用、アルコール代謝促進作用などが認められる他、抗ガン作用も報告されています。

黄ごん(おうごん)

漢方の中でも最もよく利用されるものの一つで、主に炎症や胃部のつかえ、下痢、嘔吐などを目的に使用されています。

黄ごんエキスは、炎症に関与する諸酵素に対して阻害作用を示しています。これらの作用は、この生薬中に豊富に含まれるフボノイドによるもので、特に有効成分バイカリンやバイカレイン、およびその配糖体はプロスタグランジンらの生合成やロイコトリエン類などの炎症物質の産生を阻害します。

その他、抗アレルギー(ケミカルメジエーターの遊離抑制)、活性酸素除去、過酸化脂質形成抑制、トランスアミナーゼの上昇抑制による肝障害予防、および胆汁排泄促進による利胆作用などが確認されています。

また、ヒト肝ガン由来培養肝がん細胞の増殖を抑制する他、メラノーマの培養細胞の増殖を抑制することより抗腫瘍効果が期待されています。漢方で多くの処方に配合されていますが、単独で用いられることはありません。

牡蛎(ぼれい)

牡蛎は胸腹部の動悸、精神不安、不眠、寝汗などの症状に配合されています。漢方ではかなり多用される生薬です。

主成分は炭酸カルシウムで、ほかにリン酸塩、ケイ酸塩などの無機塩を含みます。またグリコーゲン、タウリン、グルタチオン、アミノ酸、ビタミン群などが豊かです。牡蛎の抽出物が血糖値を下げることも認められており、成人病にも適しています。

乾姜(かんきょう)

生姜を蒸して乾燥した物を乾姜と呼びます。

乾姜は優れた殺菌作用と健胃効果、血液循環の改善効果、発汗と解熱効果があります。漢方では芳香性健胃、矯味矯臭、食欲増進剤の他、解熱鎮痛薬、風邪薬、鎮吐薬として利用されています。

辛味成分のショウガオールやジンゲロールなどに解熱鎮痛作用、中枢神経系を介する胃運動抑制作用、腸蠕動運動充進作用などが有ります。そう他、炎症や痛みの原因物資プロスタグランジンの生合成阻害作用などが認められています。

甘草(かんぞう)

甘草は漢方治療で緩和、解毒を目的として、いろいろな症状に応用されますが、主として去痰、鎮咳、鎮痛、鎮痙、消炎などです。

有効成分のグリチルリチンには、痰を薄めて排除する作用があり、体内で分解するとグリチルレチン酸となって咳を止めます。

その他、グリチルリチンには多種多様の薬理効果が有り、消炎、抗潰瘍、抗アレルギー作用の他、免疫活性や、肝細胞膜の安定化、肝保護作用、肝障害抑制作用などが明らかにされています。

有効成分イソリクイリチンおよびイソリクイリチゲニンは糖尿病合併症の眼病治療薬として、また胃酸分泌抑制作用もあり胃潰瘍の治療薬として期待されています。

甘草はあまり長期服用しますと、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などの副作用が現れることがあるので、注意を要します。


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漢方薬の使用上の注意


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