抑肝散(よくかんさん)


抑肝散(よくかんさん)の効能

体力中等度で、神経が過敏で、興奮しやすく、眠れない、イライラするなど神経症や精神的な症状の人に用います。神経症、不眠症、子供の夜泣き、ひきつけ、てんかん、ヒステリーなど応用します。昔は、子供のひきつけに用いたものですが、大人にも用います。最近では、認知症にも効果があることがわかってきました。


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抑肝散(よくかんさん)の解説

アルツハイマー型認知症に効果が認められた抑肝散(よくかんさん)

患者数200万人にのぼる認知症では、物忘れがひどくなる主な症状とともに、妄想や幻覚などの副次的な症状が問題になります。特に家族らにとっては、後者の症状が介護の際の大きな負担となります。

脳にベータアミロイドと呼ばれるたんぱく質が沈着する「アルツハイマー型認知症」では、物忘れがひどくなる症状がまず表れ、記憶障害の進行に伴い、物を盗まれたという妄想や、イライラ、不眠などの症状が深刻になっていきます。

一方、認知症の2割を占めるレビー小体型認知症では、物忘れよりも幻視や妄想などが先行することが多いです。横浜ほうゆう病院(横浜市旭区)院長の小阪憲司さんが、約30年前に発見した病気で、一種のたんぱく質から成るレビー小体が大脳皮質にたくさん現れ、神経細胞が壊れていきます。高齢の発症が多いいですが、40歳代で発症することもあります。

抑肝散(よくかんさん)はレビー小体型認知症に特に効果が

このような幻視や妄想などを抑える働きが注目されているのが、漢方薬の抑肝散(よくかんさん)。子どものかん夜泣きや疳((かん)の虫などを抑えるために使われてきた漢方薬です。特に、レビー小体型で顕著な効果が報告されています。

レビー小体型の治療では、アルツハイマー型でも使われる薬「塩酸ドネペジル」(商品名:アリセプト)を服用し、記憶障害の進行を抑えます。それで幻視などが消えることもありますが、消えない場合、レビー小体型では、手足の震えなどを招く恐れがある抗精神病薬は使えず、幻視などの抑制は困難でした。

レビー小体型の幻視は、人が部屋の隅にいるという形で見えることが多い。放置すると、記憶障害と幻視が結びついて、騒ぐなどして、症状はより深刻化していきます。はっきりと見えている幻視が理解されないつらさから、患者がうつ的な傾向を強めてしまうこともあります。

小阪さんは「抑肝散(よくかんさん)を早い段階から服用することで、患者の精神的な悩みや介護者の負担を減らすことができます。」と話しています。

東北大学の調査では、抑肝散(よくかんさん)を4週間服用したレビー小体型の患者さん15人のうち、12人の幻視が消失しました。進行したアルツハイマー型で起こる妄想や徘徊(はいかい)、暴力などの抑制にも、抑肝散(よくかんさん)が注目されています。

抑肝散(よくかんさん)の副作用

大きな副作用はないものの、服用中に血中のカリウムが減少することがあります、患者さんによっては意識がぼんやりしたり、血圧が上昇したりします。定期的に、血液検査を受けるなどの注意が必要です。

患者が漢方薬特有のにおいを嫌がる時は、とろみのある食べ物に混ぜたりすると服用しやすくなります。医師の処方で健康保険が適用されます。

抑肝散(よくかんさん)によって改善が期待される症状

  • せん妄:意識がぼんやりして、注意カや集中カがなくなる。突然興奮して、騒いだり、物を投げたりすることもあります

  • 徘徊:記憶障害や、自分がいる場所が分からなくなる見当識障害などが重なり、歩き回ってしまう。

  • 不安、焦燥、抗うつ:自分の気持ちが相手に伝わらず、強い不安を感じたり、イライラしたり、ときには暴力につながることもあります。

  • 妄想:現実には起きていないことを信じて疑わない。財布を置いた場所を忘れて、「財布を盗まれた」などと騒ぎたすこともあります。

  • 幻覚:本当はいない人が見える「幻視」や、いない人の声が聞こえる「幻聴」などが起こります。患者さんには本当の人や声と区別がつきません。レビー小体型では、物忘れより先に表れます。

適応される症状

配合生薬

配合生薬の効能

蒼朮(そうじゅつ)

朮は体内の水分代謝を正常に保つ作用があり、健胃利尿剤として利用されています。特に胃弱体質の人の下痢によく効き、胃アトニーや慢性胃腸病で、腹が張るとか、冷えによる腹痛を起こした場合などにもいいです。

日本では調製法の違いによって白朮(びゃくじゅつ)と蒼朮(そうじゅつ)に分けられます。いずれも同じような効能を示しますが、蒼朮は胃に力のある人の胃腸薬として使い分けられています。

両者の主成分は、精油成分のアトラクチロンと、アトラクチロジンです。ちなみに、白朮には止汗作用があるのに対して、蒼朮は発汗作用を示します。朮は漢方治療では、多くの処方に広く利用される生薬の一つです。

茯苓(ぶくりょう)

茯苓には、利尿、強心、鎮痛、鎮静作用があります。漢方処方では利尿剤、利水剤、心悸亢進、胃内停水、浮腫、筋肉の痙攣などに茯苓を配合しています。

秩苓とは漢名で、植物名をマツホドと呼び、松の根に寄生するサルノコシカケ科の菌核です。秩苓は菌核に多糖類のβパヒマンを、それにテルペノイドやエルゴステロールなどの成分を含んでいます。

最近の報告では多糖類のパヒマンから誘導されたパヒマランに、細胞性免疫賦活作用が認められています。サルノコシカケ科に共通の抗腫瘍作用とともに、今後の研究が期待されています。

茯苓は民間薬としては使われず、まれに利尿を目的に煎液を飲む程度です。漢方でも配合薬としては汎用されますが、単独では用いません。

当帰(とうき)

婦人病の妙薬として、漢方でひんぱんに処方される重要生薬の一つです。漢方では古来、駆お血(血流停滞の改善)、強壮、鎮痛、鎮静薬として、貧血、腰痛、身体疼痛、生理痛生理不順、その他更年期障害に適用されています。

茎葉の乾燥品は、ひびやしもやけ、肌荒れなどに薬湯料として利用されています。鎮静作用はリグスチライド、ブチリデンフタライド、セダン酸ラクトン、サフロールなどの精油成分によります。また有効成分アセチレン系のファルカリンジオールに鎮痛作用があります。

駆お血効果を裏付ける成分として、血液凝固阻害作用を示すアデノシンが豊富に含まれています。また、アラビノガラクタンなどの多糖体に免疫活性作用や抗腫瘍作用が認められ、抗ガン剤としての期待も、もたれています。

川きゅう(せんきゅう)

川きゅうには補血、強壮、鎮痛、鎮静があります。漢方では貧血、冷え性、生理痛生理不順など婦人科の各種疾患に利用されています。

有効成分のリグスチライドなどのフタライド類に筋弛緩作用や血小板凝集阻害作用が有ります。またクニジリットには、免疫活性作用が認められています。

古い医学書には性病による各種皮膚疾患、化膿性のできもの、疥癬(かいせん)などを治すと記載されています。

釣藤鈎(ちょうとうこう)

釣藤鈎には頭痛、めまいを伴う高血圧に対する血圧降下作用、鎮静効果、鎮痙効果などがあります。

血圧降下作用は、実験的にも臨床的にも証明されていますが、これは血圧降下薬のレセルピンと同じアルカロイドのヒルスチンなどによるものです。

また鎮静効果、鎮痙効果は有効成分のリンコフィリン、コリノキセインなどによるもので、これらの成分には睡眠延長作用が認められています。

さらに動物実験で、空間認知障害の改善効果が認められていることから、記憶障害に対する効果も期待されています。最近、老人性痴呆症に釣藤鈎を配合した釣藤散が、有効との臨床報告がなされています。

柴胡(さいこ)

柴胡は漢方治療で解熱、消炎、鎮静、鎮痛薬として多用される重要生薬の一つです。主成分としてサイコサポニンA~Fなどのサポニンを豊富に含み、動物実験で上記薬効を裏付ける多くのデータが報告されている他、臨床的に肝機能障害の改善作用が認められています。

漢方では主として胸脇苦満、風邪、咽頭の痛み、気管支炎、肺炎などで炎症熱のあるもの抗炎症などを目標に慢性肝炎、慢性腎炎などに処方されます。

一時柴胡を配合した漢方薬が、一部の肝機能障害患者で副作用と思われる症状を示し、問題になつたことがありますので、他の医薬品と併用する場合は医師とよく相談してください。

甘草(かんぞう)

甘草は漢方治療で緩和、解毒を目的として、いろいろな症状に応用されますが、主として去痰、鎮咳、鎮痛、鎮痙、消炎などです。

有効成分のグリチルリチンには、痰を薄めて排除する作用があり、体内で分解するとグリチルレチン酸となって咳を止めます。

その他、グリチルリチンには多種多様の薬理効果が有り、消炎、抗潰瘍、抗アレルギー作用の他、免疫活性や、肝細胞膜の安定化、肝保護作用、肝障害抑制作用などが明らかにされています。

有効成分イソリクイリチンおよびイソリクイリチゲニンは糖尿病合併症の眼病治療薬として、また胃酸分泌抑制作用もあり胃潰瘍の治療薬として期待されています。

甘草はあまり長期服用しますと、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などの副作用が現れることがあるので、注意を要します。


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漢方薬の使用上の注意


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